坪単価の不確かな性質
坪単価が25~100万円と、大きすぎる幅を持つ理由が問われました。
それは仕入れなどの取り組み方や、手間のかけ方の多寡から生じることを書いてきました。大きな傾向はそれでよいとして、もう少し細かな差を問題にするなら、坪単価の精度を確認しておくことが必要になります。坪単価が57万円と63万円では随分違うように感じられますが、実際には同じ仕様の住宅でもその程度の、ときにはそれ以上のブレが出てくるのです。
誰でも知っているように思っているけれど意外と不確かなもの、それが坪単価なのです。
宣伝としての坪単価
まず初めに、コマーシャルに使われている坪単価と、実際に建てられている坪単価が必ずしも一致していないことを認識しておく必要があります。
例えば「坪25万円~」と宣伝されていても、皆がその通りに建てているわけではありません。敷地の条件から必要に迫られたり、そうでなくても、より満足度を上げたりするために坪単価を上げている人も多くいるのです。
パックツアー料金のような「※※万円~」という、スタート地点の最安値表示でなく、完工した実績の平均値などを知らせてくれると分かりやすいのですが、そうした情報の公開は一部のメーカーに限られるようです。
因みに、コマーシャルで有名なタマホームには坪単価25.8万円のシリーズがありますが、その竣工時の平均坪単価が40万円(40坪・1600万円:2007年実績)だったと、同社の玉木社長がインタビューに答えられています。(日経ホームビルダー2008/01)
それではここで、坪単価の観察を通して住宅建設の現場に一歩踏み込んでみましょう。
坪単価計算の分子と分母
坪単価がブレるのには次の4つの理由があります。
1:坪単価の分子である工事費に、どこまでを含めるかは人や会社によって違いがある。
2:坪単価の分母である床面積に、どこまでを含めるかは人や会社によって違いがある。
3:面積が同じでも、建物の形状によって建材の量や工事の難易度が変わる。
4:全く同じ設備を使っても、建物が大きければ坪あたりの設備負担が小さくなる。
ひとつひとつ見てみます。
1:坪単価の分子である工事費に、どこまでを含めるかは人や会社によって違いがある。
ハウスメーカーは工事費に「本体工事費」をあて、床面積に「該当床面積(坪)」をあてています。
ここで「本体工事費」には、外構工事はもちろんとして、建物の外部で行う設備の引き込み工事や、後から取り付けのできる照明器具やカーテン・ブラインド、空調機などが含められていません。なぜなら、これらの工事は敷地条件や建て主の嗜好によって大きく変化するため、これらを含めて計算すると坪単価が変動してしまうからです。ハウスメーカーの場合、商品としての坪単価は常に明確であることが求められますから、そうした変動部分は別枠で考えるのです。
建て主への見積りでは別途工事として明示されるため混乱はないようですし、標準化という観点からは理解できる方法です。
一方で設計事務所や一部工務店は、毎回違った家を作るため標準化の概念が希薄で、照明器具と空調機は当然含めますし、カーテンブラインドも契約に入っていれば含める傾向にあります。時には外構の玄関周りを含めているケースさえあります。
ただ、ハウスメーカーと競合する工務店はハウスメーカーに近い出し方をするなど、会社によって違いがあるようです。
常識的に処理されれば、これらが坪単価に与える影響はそれほど大きくはなく、大抵数万円程度で10万円になることは滅多にないでしょう。しかし、この性質を逆手にとるようにコマーシャルに利用しているケースもあります。
最近あまり目にしなくなりましたが、坪単価19.8万円というようなチラシがありました。このように激しく安さを訴えたい場合は、「オプション工事」や「別途工事」を増やして、「本体工事」を小さく設定することが可能です。
極端な例としては、各部屋のコンセントは1個が標準で、2個目からはかなり高いオプションということもあるようです。必要最小限の窓のみが設定され、それ以外はオプションになっていて、ペアガラスを推奨しているのに標準仕様はシングルガラスという矛盾もこういうときに起こります。
2:坪単価の分母である床面積に、どこまでを含めるかは人や会社によって違いがある。
「該当床面積」には、室内床面積だけでなく、そこにバルコニー、テラス、ポーチ、ロフト、小屋裏収納、床下収納などを加えることがあります。床面積を大きく設定するほど坪単価は下がりますから、どこまでを含めるかは重要な問題です。
設計事務所は坪単価を低く見せる欲求が薄いため、確認申請の床面積(室内床面積のみ)というところが多く、ハウスメーカー、工務店は坪単価が実態以上に大きくなるのを嫌うため、バルコニーなどは含めるようです。
バルコニー以外にも小屋裏収納やポーチなどを含めれば、室内床面積のみで算出した場合と一割程度の違いを生じるでしょう。ですから、公称坪単価57万円と63万円を、こうした条件抜きに比較することはあまり意味がないのです。(坪単価の標記には、通常その計算根拠が明示されていますが、正確に補正することはなかなか難しいものです)
建物の形状と規模が坪単価に及ぼす影響
そして、上のような各社の計算条件の違いや広告的な意図がなくても、坪単価が変動することがあります。それは、建物の形状と規模です。
3:面積が同じでも、建物の形状によって建材の量や工事の難易度が変わる。
建物の仕様がまったく同じとして、建築面積が20坪の総2階(1階と2階が同じ大きさ)の住宅を考えてみます。(延べ床面積は40坪です)。ひとつを正方形のプランとし、もうひとつを中庭のあるコの字型の家とすると、単純計算では後者の外壁面積が35%、80㎡程度増えます。この時、外壁の仕上げだけが増えるのではなく、基礎・構造体・足場・断熱材・内壁・サッシなどにも影響がでてきます。合計は小さくみても200~300万円くらいのアップとなり、仮に240万円とすれば坪単価は6万円(240万円÷40坪)アップします。
4:全く同じ設備を使っても、建物が大きければ坪あたりの設備負担が小さくなる。
また、建物の規模も坪単価に影響します。
キッチン・トイレ・浴室に設ける設備機器の総額が250万円だった場合、家の延べ床面積が25坪と50坪の場合では、設備の坪単価がそれぞれ10万円(250万円÷25坪)と、5万円(250万円÷50坪)となって、坪単価5万円の違いを生じます。
坪単価は目安でしかない
こうしてみると、同じグレードの建物でも1割程度は簡単に変化してしまい、1~4が重なって作用すれば、思った以上のインパクトがあることが想像できます。
(単価を抑えやすい40坪の建物を25に圧縮すると、2割変わっても不思議はありません。)
ですから、坪単価は目安として活用できても、最終的には総額で比較しなければ正確性を欠くものだと言えるのです。
そして、このような坪単価の性質を勘案して補正すれば、はじめに書いた25万円~62.5万円という2.5倍の開きが実際はもっと圧縮されて、前段で触れた設計・営業のソフトの違いを加味すれば、ある程度納得できる価格差になったとは言えないでしょうか。
きっと、建てる会社によって生ずる価格の高低より、建て方によって生ずる高低の方がずっと大きいはずです。ですから、会社を選ぶのと同じかそれ以上のエネルギーで、建て方を考えてみることが大切なのではないでしょうか。