耐震性の考え方

耐震性はわかりやすいようでいて、意外と簡単ではありません。喩えを通してその考え方の一端を紹介します。

構造強度の基本

 多くいただく質問のひとつに、「どの住宅の耐震性が高いのでしょうか」というものがあります。地震の多い日本では当然の心配ですが、一般論として木造の家と鉄骨造の家ではどちらが地震に強いか?という意味の質問でしたら、すぐさまお答えすることはできません。

 

 耐震性つまり構造的強度は、材料ではなくて構造計画で結果が出るものだからです。

(鉄骨造と鉄筋コンクリート造、木造A社と木造B社・・・という比較でも同じことです。)

 

 具体的に例を引いて説明します。

 木造と鉄骨造の住宅と書きましたが、もちろん、同じ形で柱や梁の本数と大きさも同じであれば、鉄骨造の方が高い強度を示すでしょう。

 これは材料強度が高いためで、喩えてみると、同じ人数10人ずつで綱引きをするとき、平均体重50㎏のチームと70㎏のチームなら、多分70㎏のチームが勝つと言っているようなものです。

 

 でも、形状が違うケースでは、つまり50㎏のチームが70㎏のチームより人数で勝っていた場合には、結果は異なることもあるでしょう。

 

 もう一度戻って10人ずつだとしても、50㎏のチームがスパイクを履いていて、70㎏のチームが靴下だったとしたら結果はどうなるでしょうか?

 

 更に、10人が緊密に配置されたチームと、バラバラに間延びして配置されたチームだったらどうでしょうか?

 

 構造強度・耐震性は、チームとして、体重ばかりでなく、人数・配置・装備・連携といった総合力で導かれるものなのです。

 

 ですから筋交いや柱の強度という、パーツで耐震性を訴えているのは、間違いとは言えないまでも身びいきで、片手落ちな説明だと言えるでしょう。

 体格の良いひとりのメンバーの筋肉を誇示するようなもので、なんとなく強そうに思えるのはとても良くわかりますが、ほんとうは皆の体格が似通っている方が強いのです。

 

 デザイン・機能面で練り上げた平面・断面計画に、その形状に見合った構造計画を立て、それを満たす材料を選ぶのが設計の考え方なのです。

 

 

経済設計

 原子力発電所の主要な建物には、強大な地震でも、核心部分に亀裂さえ入らないような構造強度・耐震力が求められています。

 ですから、大変な建設コストがかかって、しかも強度に不利な働きをする開口部(窓・扉)は必要最低限に抑えられています。

 

 原子力発電所は極端な例ですが、基本的な考え方は住宅でも同じです。

 

 住宅計画で、闇雲に、少しでも構造強度を上げようとする行為は、どこかで予算の配分に偏りが出て、欲しかったシステムキッチンを諦めなければならなくなったり、快適な採光計画や、広々とした空間の確保とのせめぎ合いになったりもします。

 

 当たり前に求められる二つの要素、『快適な生活』 と 『高い耐震性』 には、美味しい食事とスマートな体型のように、双方を観察しながらバランスを取ることが要求されるのです。

 

 これを構造専門家は経済設計と呼びますが、それは安く建物を造るということとは違います。バランス良く、目標数値を滑らかに超えることを目指しているのです。

 

 

耐震基準

 それでは、目標数値をどこに置くのが良いのでしょうか。

 

 建築確認申請の根拠となる建築基準法には、満たすべき耐震性が定められていますが、これは建物として最低の基準とされてきました。

 これに対して新しく定められた住宅性能表示制度には、もう少し目安となる基準があります。

 

住宅性能表示基準の耐震等級と概要

等級1 建築基準法レベルの建物強さ

     数百年に1度の地震力に対して倒壊・崩壊等しない。

等級2 建築基準法の1.25倍の建物強さ

     数百年に1度の地震力の1.25倍の力に対し崩壊・倒壊しない。

等級3 建築基準法の1.5倍の建物強さ

     数百年に1度の地震力の1.5倍の力に対して崩壊・倒壊しない。

 

 性能表示に関してはハウスメーカーが発表しているケースが多いのですが、等級3を標準とするところと、等級2を標準として要望に応じて等級3に高めるというところ、そして独自基準によって表示制度を使っていないところがあるようです。

 

注:性能表示をするためには各種申請手続きが必要となるため、工務店などで一件々々表示しているところはほとんどありません。

 

 木造住宅を前提にもう少し具体的に見ると、等級2は耐力壁(※)を等級1の約1.5倍の量(長さ)、等級3では約2倍の量を設けることで得られます。

(※耐力壁:2本の柱間を、開口部を設けずにベニヤや筋交いで補強したひしゃげない壁)

 

 A+の結論として、等級2を満たす壁を、偏らせずにバランス良く配置するのが現実的な目標設定ではないかと考えます。

 

 

補足:風圧力

 実は、建築基準法では地震力と同時に風圧力(※)についても検討するように定められています。

 そして小中規模の住宅では、多くの場合、ふたつのうち風圧力の方が大きいことはあまり知られていません。(※風圧力:500年に1度発生する暴風による力)

 

 住宅の平面が長方形だった場合、長辺の面に受ける風圧力は、ほぼ間違いなく地震力を超えるでしょう。

 住宅地に家を建てる場合は、付近の家の連なりが防風装置になりますから、基準法で定めた強風が吹き付けることはまず考えられません。でも、状況によらずこれらを満たしていますので、地震力に対しては安全率が見込まれていると考えても良さそうです。

 

 以前、七里ヶ浜の海に面した崖上に設計をしたとき、台風に備えて等級3を確保したところ、お客様から「強い台風でも何ら不安を感じなかった」とうかがって、意を強くしたことがありました。