B ローコストを目指す方法

B-1 ひと通りという思い込み

 

 特にローコスト住宅にしようとしなくても、建設資金に限度がある以上コストの調整は避けて通れません。多くの場合、それは何かをあきらめたり縮小したりするという引き算の作業になっているようです。

 それは予算が潤沢な人でも変わらない傾向があって、誰もが引き算の苦労をしているのが不思議な気もします。
 おそらく、予算の高低によらず「ひと通り」というイメージがあって、それに届かせようとするため誰もが引き算の必要に迫られるのでしょう。しかし、その「ひと通り」が自分の必要とするものと一致しているかどうかというチェックはあまりなされていないようにも思えます。


 ある住宅雑誌で紹介文に、「建て主は親密さが感じられ、欲しいものに手を伸ばしやすい狭いリビングの提案を求めた。」とあるのを見つけ、狭いことに価値を見出す人が当たり前に紹介されている、と新鮮な印象を受けました。大きな家が立派な家、というかつての常識に頓着していないからです。
 設備機器はグレード分けされていて、総額は選び方によっては数十万円の違いができます。ここで、低いとされるグレードの何が問題なのか?と考えてみると、何かが少し変わってみえてきます。低いグレードでも、高いグレードを隣に置いて見比べなければ何も不満が無い場合が多いからです。


 一度は「ひと通り」という思い込みを疑って、どうしても必要なものだけを残して他のものを切り離してみたいものです。仮に20万円倹約できたとして、これを「ひと通り」以外の新しいことに使えたら、思いがけない楽しさが生まれるかも知れません。

B-2 箱の家

 

 ローコスト住宅には、二つのアプローチがあります。

 ひとつは、材料費単価を抑え、人件費単価を抑えてとにかく安く作ろうというものです。もうひとつは、材料の量を抑えて、手間を減らす計画を立てて合理的に作ろうとするものです。前者が幅をきかせていますが、これは下手をすると粗末なものをテキトーに作るだけに終わってしまう危険性があります。これに対して後者にも、見た目が単純すぎて安っぽくなってしまう恐れがあります。


 しかし、単純形で美しさを表現することに成功した住宅は少なくありません。例えば高須賀晋という建築家のの設計に、三角形の断面をした住宅で、屋根と壁を兼用したローコスト住宅がありました。また、増沢洵の三間×三間という正方形で建築面積9坪の自邸は、最小限住宅として今でも熱烈に支持されています。
 そうした住宅はよく、「箱の家」と呼ばれますが、いつまでも人を飽きさせない明快な力を持っているようです。


 ローコストは、アプローチ次第で節約という切り捨てにもなるし、創造という発展にもなるようです。
 そして単純形のローコスト住宅はランニングコストを小さくできて、とてもエコロジカルです。これは、楽しく元気になる方法としてもっと注目されても良いのではないでしょうか。

B-3 絵本の家

 

 ローコスト住宅で「箱の家」がどうしても安く退屈に見えてしまうとき、これを回避する方法があります。

 それは、絵本にでてくるような家にすることです。絵本にでてくるような可愛い家ということでは必ずしもなくて、そのくらいの単純形を採用し、演出によって視点を変える方法です。
 アメリカの郊外型住宅を観察してみると、規模はとても大きいものの、手法としてはこの単純形を活用していることが見えてきます。


 演出には、まず外壁にインパクトを与えるという方法(全面板貼りやタイル貼り)があって、特徴のあるサッシをアクセントに使用したり、屋根の材質を変えたりして軒先のデザインを工夫することなどが有効です。
 建物本体を数百年使い続けているイタリアの住宅やショップには、そこに付く窓のデザインだけで雄弁に語っているものが少なくないので、参考になるかも知れません。

B-4 中央配置の家

 

 これは、建築家の手塚由晴さんの「小さな家の気づき」2003年・王国社、という本で詳しく紹介・解説されている方法です。
 正確な意義や効果については実際に読んでいただかなければなりませんが、ごく乱暴に概要を紹介させていただくと、光が回り込む豊かな空間を確保しようというものです。(手塚さんはヴィッラ形式と呼びます)

 敷地の広さがある程度必要(30坪でも可)ですが、どこにも空気の澱みがなく、いつもこどこかに光を受けている家は、まさにヴィッラ(別荘)のようなゆとりが感じられます。
 これはコストを意識した取り組みではないのですが、先の箱の家にも通じるものがあって経済効果があるはずです。


 中央配置の家は、間口を使い切って建てる家より小さく見えますが、内側からみた「広がり」が、より大きな満足感に繋がる可能性はとても大きいでしょう。

B-5 外との繋がりの演出

 

 建設コストや法令制限で床面積に限りがあるとき、もと広がりを得る方法として、外部を内部化するということがあります。

 庭の一部などをあたかも部屋の中、あるいは一部のように感じさせるもので、それを実現するための重要なポイントに仕上げ材料の連続があります。
 室内のフローリングに高さをそろえて外にウッドデッキを敷いたり、部屋の一部の床を土間として、テラスのタイルを引きこんだりします。併せて壁材料と塀などの連続を図れば、かなりの一体感が得られます。

 ちょっとして工夫やアイデアで、実面積より大きな解放感を得ることが可能なのです。

B-6 オープン外構

 

 敷地条件にもよりますが、道路との境に塀を作らないオープン外構にすることで、工事費を減らしながらしかも豊かさを実感できる場合があります。
 塀がなければ、建物が足元まで自然に見えるので、景色に一体感が生じて美しく見えます。また、道路に広がりがでることで人の動作にゆとりが生まれ、疎外感を生む塀がないことで親密感も醸し出され、その場所の印象をとても良いものにするのです。


 それでも、交通量の多い道路では不安でしょうし、もともとの歩道が広ければ効果は薄らぐかも知れません。また、防犯上の心配をされる方も多いと思いますが、この点では不審者に隠れる場所を与えなりというメリットにもなりえます。
 建物に有害な湿気を遠ざけるという点では、耐久性の向上に大変効果が大きいといえるでしょう。